毛糸屋さんと詩人屋さん#3〜トーザ・カロットの人々

“お昼寝しに来たわけではないのでしょう”


猫そっくりの店主はそう言って

軽くしっぽをふりました


小さな小さなワークショップは

もともと

編むよりもつれさせるのが

得意な人のための会だったのですが

いつの間にか

おしゃべり好き

一人が好き

お昼寝したい

ケーキを焼きたい

相談したい

黙っていたい

そのほか諸々なんでもあり!

そんな気楽な場所になったのです


詩人屋さんは

毛糸よりも文字を編む時間が長く

あまり複雑なものだと

どうにもこうにもならなくなるので

今年はティペットにしようと思って

毛糸屋さんにやって来たのでした


その通り

ティペットを編みたいのだけど

何色にしたものか迷ってしまってね


詩人屋さんは

かぎしっぽをちょっとふくらませました


“こちらに”


猫そっくりの店主は

Kanadeが定着して落ち着いたばかりの

毛糸玉のところに

詩人屋さんを案内しました


“明日からお店に並べる予定でしたが”


詩人屋さんなら

この子たちも喜ぶでしょう、と

まあるい手でひと玉ひと玉

ていねいにカウンターに並べました


“『緋色の星はいつか』です”


詩人屋さんは

ひと玉そっと持ってみました

サラサラサラ

砂の崩れるような音がして

やがて

パチパチパチ

何かがはじける音に変わっていきます


終わってしまったのね

詩人屋さんは静かに言いました


“いつかまた始まるために”

猫そっくりの店主は

ティペットの編み図と毛糸玉を包みながら

頷きました


今日もトーザ・カロット岬には

誰かの武勇伝をこっそり伝える風が

びゅうびゅうと吹いているのです